4割の人の命を奪ったペストが平均余命になんの影響も及ぼさなかった理由
今、カミュの「ペスト」が売れているらしい。新型コロナウイルスの観戦の脅威にさらされた人類は、過去の感染症に学ぼうとしている。
ペストとはネズミを介して感染する人畜共通感染症であり、治療をしない場合の死亡率は60%から90%にのぼる。あらゆる時代に場所で猛威を振るったが、特にヨーロッパにおいては1347年〜1660年代にかけて猛威を振るった。一度流行すれば人口の3〜5割程度の人が亡くなったそうだ。
それにも関わらず、ペストが流行る前とあとで平均余命はほとんど変わらなかった。
(10万年の世界経済史 表5.3 より)
その理由はペストのおかげで、生活レベルが向上したからだ。ペストは大勢の人の命を奪った。しかし産業革命以前の世界では、所得は死亡率が上がると上昇していた。なぜなら労働者の供給が減ることで、労働者の賃金が上がったのだ。現在みたいに技術革新のスピードが速くなかったため、世界が豊かになって全員が豊かになれる時代が訪れるより前の世界だったからだ。生活レベルの上昇により、ペストを生き残った人たちの寿命は大きく伸びたのだ。
(10万年の世界経済史 図3.1 より)
ペストの流行で平均余命が下がらなかった理由は所得の上昇に加えてもう一つある。それは「例外的に出生率が低く抑えられた」ことが大きい。
当時の世界では所得の上昇はほとんどの場合において出生率の上昇につながった。そして出生率が伸びることは、人々の生活レベルの低下をもたらしたのだ。これが農耕以降爆発的に人口が増えたにもかかわらず、ちっとも生活レベルが上がらなかった理由である。
所得が上昇する→出生率が上昇する→人口増による所得が低下する→死亡率の上昇
というループが存在し、これは「所得と平均余命に平衡状態をもたらす」役割をした。
しかしペストの流行時では、出生者数が予期されるほど増えなかったのだ。これにより人々の生活水準は高いまま保たれた。
ペストは当時のヨーロッパの3〜5割にものぼる大量の人々を殺しながら、同時に生活水準の大幅な上昇と死亡率の上昇を補うほどの平均余命の上昇をもたらしたのだった。
ペストは大いに恐れられた。あまりの恐ろしさに罪深いヨーロッパ人への神からの鉄槌に例えられたほどだ。しかし実際には平均余命はほとんど短縮せず、せいぜいお説教程度にすぎなかった。
それに加え、神は「生活レベルの上昇」という素晴らしい贈り物さえ授けてくれたのだ。
というようなことが書いてある本が
10万年の世界経済史(日経BP社)https://amzn.to/2VvBQSb
である。人類は産業革命時期まで10万年ほどほとんど変わらない寿命、所得レベルで生活していた。しかしそれが産業革命を境に驚くほど豊かになった。なぜ1800年代になるまで革命は起こらなかったのか?なぜ産業革命はインドや中国日本ではなくイギリスで起こったのか?
という問いに対して数多くの表を用いながら答えていく。
おうち時間のお供にどうぞ