医大生 の blog

医学部のこと。読んだ本について書きます。

【研究者編】研究者の人生がわかる本5選  惑星から鳥まで 【おすすめ本】

 

 

 

 

職業とは、なんだろう。

人間が生計維持手段として行うとともに,自己の能力に応じかつ自己実現をはかる目的で行う,社会的に有益な継続的活動をいう

つまりざっくりいうと、人が何をして生きて、ご飯を食べているのか、

ということであろう。

一般的には、医者、弁護士、看護師、とかがパッと出てくるのではないだろうか。

まかり間違っても、「研究者」ではないはずだ。

身の回りに、研究をしてご飯を食べている人はいるだろうか?

あまりいないと思う。私の身近にもいない。

 

この記事では、普段あまり接することのない「研究者」という職業がどのようなものか、研究者さんが書いた本を通じて考えていきたい。

 

ちょっと長いけど最後まで読んでもらえたら嬉しいな、、、!

 

研究者と一口に言っても、それはそれは非常に多くの部類の研究者がいる。医療分野でオートファジーの研究をしている人もいれば、X線物理学を研究している人もいるし、バッタを研究している人もいる。

 

研究者と接する機会など、あまりないが、大学の授業の一環で、基礎医学の研究をしている人とお話をする機会があった。

彼、彼女たちは自分の研究分野について実に楽しそうに話をしてくれる。

 

自分の興味のあることの最先端で、働きまだ解明されていない謎を解く、好きなことを仕事にする、の究極の形であろう。

 

ここでは多種多様な分野の研究者を紹介したい。

研究者になる利点や辛いところ、楽しさについても考えたい。

 

目次

 

 

昆虫学者

 

バッタを倒しにアフリカへ

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 

 

研究者というのは、特異な生き物である。ちょっと変わった生活をしている人も多い。しかしこの人は、群を抜いて変わっているであろう。

表紙でバッタの格好をしている彼は、「バッタ」の研究者なのだ。

バッタの研究者のくせに、バッタアレルギーらしい。バッタが腕を這うと、その痕がきれいに赤くなってかゆくなる、バッタロードができるらしい。かわいそう。

 

身近にいない研究者の中でもさらに見たことも聞いたこともないレベルの、「バッタ」の研究者だ。身近にバッタ研究者がいるよ~っていう方がいらっしゃれば、手を挙げてもらいたい。きっと、高校の授業で古典の先生が「この問題わかるひと~?」と問われたときのように、無残な沈黙が続くであろう。

 

このバッタの研究者の前野氏は、アフリカのバッタによる食害を解決するために、単身エチオピアへと旅立ち、「サバクトビバッタ」の研究を始めるのである。

 

本書では、主にアフリカでの研究生活が綴られている。あちらにバッタの大群がでたと聞けば、(少し不謹慎ではあるが)喜んで飛んでいき、大干ばつでバッタが出ないと言っては泣く生活を送る。

言葉で書くと楽しそうだが、日本で生まれ育ちモーリタニアで研究生活を送るというのは、並大抵のことではない。さらに、研究者とは「結果が出てなんぼ」の厳しい世界である。その中で、日々新しい成果を求めてアフリカをさまようというのは、想像よりはるかに大変だろう。

 

「研究者」と聞いて普通想像する、白衣を着て実験室にこもる生活とは全く異なる。

 

彼も研究者に特有のある悩み、「定職に就けるか問題」に悩まされることになる。どんなにタフな仕事人でも、さすがにお給料が出ないと食べていけない。

京大の「白眉プロジェクト」という、倍率三十倍のポストに申し込み、面接を受けることになる。もしこれに合格すれば、5年間の任期で安定して給料を得ることができる。

著者ははたして、どうなるのか。

 

1発目から、変わり種をご紹介させていただいた理由は、研究者という職業に対する固定観念を取っ払ってもらいたかったからである。

彼ら、彼女らには本当に多種多様な研究分野、生活がある。

 

お堅くて、とっつきにくいイメージを少しでも払拭してもらえたら嬉しい。

 

医療研究者

 

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた

 

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた (講談社+α文庫)

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた (講談社+α文庫)

 

 

今の日本に数多くいる、研究者の中でもいちばん有名なこの人を外すわけにはいかない。

 

山中伸弥先生だ。

 

研究者の仕事とは、自分の研究をただひたすら進めて論文を書くだけではないのである。

特に自分の研究室を1つ任される立場になると、研究室のために予算を取ってくるというのが、とても大切な仕事のひとつになるのだ。お金がなければ研究もできない、当たり前のことである。山中先生は、自身の研究分野でも素晴らしい発見をされているが、上記のようなポイントにおける調整が非常にうまいひとだったのだ。

 

研究とは規模が大きくなればなるほど、多くの協力者や、お金が必要になるのだ。

 

普段は、あまり注目される側面ではないけれど、興味深いと思いませんか?

 

 

天文学者

 

冥王星を殺したのは私です

冥王星を殺したのは私です

冥王星を殺したのは私です

 

 

数年前、といってももう十年近く前になるのか、冥王星が太陽系の惑星から外されたというニュースを覚えているだろうか?

この騒動の中心にいたのが、この本の著者マイク・ブラウンである。

 

「ジーナ」という愛称で知られる第十惑星になる予定だった星の発見までの道のりが語られる。

 

彼の結婚と、育児についてもこの本で触れられていて、とても面白かった。彼は、生まれたばかりの娘の、ミルクの回数や、ご機嫌、一日の睡眠時間、などについてデータをとり、何かのパターンがあるかどうか計算したのだ。そしてそれを、ブログに載せて公開した。

なんとも父親らしい(笑)行動である。彼は育児休暇のあいだ、熱心なミルクの管理人だったそうだ。

 

そんなほんわかするエピソードものっていたが、研究者らしいピリピリした発見争いもある。そして彼はなんと、インターネット上を発端とする嫌がらせを受け、研究成果を盗まれかけるのである。

 

また、発見はなされたもののいつ論文を出すのか、という問題もあるらしい。私のような素人からすると、発見したらすぐに書いて出せばええやん、などと思ってしまうのだがそうではないらしい。

その発見に関するさらなるデータを集めて考察を重ねて、論理を完璧に近づけてから論文を出さないと、後から結果の誤りや重要なことを見落としていたりすれば、大変なことになるのだ。だからといって、遅すぎると他の研究チームが先に論文を出してしまうかもしれない。

学問研究というのは、常にいちばんはじめの人だけが賞賛される世界である。

何年か前、日本の議員か誰かが「2位じゃだめなんですか?」などと寝ぼけた発言をして物議を醸していたが、2位じゃダメなんです!!!!!

 

そんな厳しい世界の一面も垣間見られると思う。

 

考古学者

 

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ネアンデルタール人は私たちと交配した

 

 

著者、スヴァンテ・ペーボ氏は医学生であったがエジプト学にとりつかれていた。しかし彼は、最先端の基礎研究をしていたし、臨床も楽しかった。どの道へ進むのが最善なのか、悩みに悩んだ彼は考古学と分子生物学を合体させることを思いついたのだ。

考古学者というと、帽子をかぶって化石を発掘しているイメージだった。しかし彼は違う。最新の機械を用いて、古代人類からDNAを抽出しているのだ。

 

彼は、人類の大いなる問い、ネアンデルタール人は我々現生人類と交配したのか、という問題に対してついに答えを見つけるのだ。実に5年に及ぶ研究であった。

 

古代エジプト人のDNAを抽出できる、と聞いても本当にそんなことが可能なのかと疑ってしまう。まして2,30万年前のネアンデルタール人のDNAを解析するなどできっこない、とみんな思っていたのだ、彼がそれを成し遂げるまでは。

 

しかし、それは実に困難な道だったのである。特に、DNAは骨から採取するのだが、状態のよい骨の数が足りない、といった問題に悩まされる。

さらに、現代人のDNAに汚染されてしまい、解析しても解析しても我々のDNAしかでてこない、コンタミネーション(汚染)という状態にも悩まされる。

 

 

この本には、彼の研究人生が書かれているので、どのように研究テーマを移していったのかも知ることができる。彼は途中で、古代動物の研究をしていたのだが、本当にやりたい研究は人類に関するものだったので、別の研究室、研究職を探すことになる。

 

研究者には、研究上困ることがそれぞれたくさんあるだろうが、分子考古学ともなると、普段全く関わりがないため想像もつかない悩みがたくさんあるのだと知ることができた。

 

 鳥類学者

 

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

 

 『日本タレント名鑑』に載っているタレント、またはモデルが1万1千人。

日本鳥学会の会員数は約1200人。

学会員全員が鳥類学者だったとしても、鳥類学者はタレントよりも希少な存在なのだ、と筆者は言う。

鳥類学者と言われてイメージする姿は、公園で帽子をかぶって双眼鏡を持ちながら木を見つめるおじさんである。しかし彼は、そんなのほほんとした観察ライフを送っているわけではない。研究のために未開の無人島(例えば南硫黄島)で、海を泳ぎ、崖を登り、口に入ってくる無数のハエと戦う。

私の思い描いていた鳥観察とは似ても似つかない。

 

鳥類学者になったというからには、小さいころからさぞかし鳥を愛していたのだろう、と思ってしまう。だが筆者は言う。「 鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」大学生になり、野鳥研究サークルに入会し、そこから流されるままに鳥学道が始まる。

 

そのようにして始まった鳥類研究は、今も天職として身を献げる毎日だそうだ。

 

「将来の夢」を描けない小学生は肩身の狭い思いをするが、受動性に後ろめたさを感じる必要は無い。これを処世術にうまく生きていくのもひとつの見識である。

積極的に自分が何をするか決めなくても、大好きなことが見つかる場合もあるのだ。

軽妙な筆致で、読者を楽しませながら鳥道を見せてくださった筆者に感謝である。

 

 

 研究者になるということ

 

すべての人がうまくいくわけではない。日の目をみるような成果を出せる人はほんの一部だけ。確かにそうなのかもしれない。

だからといって一概に、「研究者になるなんて成功する保証も無いからやめておけばいいのに」とは言いたくない。

 

 

研究者になるメリット

  • 好きな分野についてとことん突き詰めることができる。
  • 研究生活は苦しいこともあるが、発見の喜びがすべてを超える。

 

研究者になるデメリット

  • お金があまり入ってこない。(私の大学でも、研究だけで食べていくのが難しいから臨床もしているという人をよく聞く。)
  • 新しい発見ができなかったり、自分の研究していたことを他のチームが先に発見してしまったりというつらさがある。
  • 生活が安定しない。研究員で、安定した報酬が約束されている人はわずかである。

 

 

 

小難しくて、変わってて、なんだかつまらなそう。そんなイメージを研究者に抱いていたこともあった。

 

いまは、自分の好きな分野を研究して、大発見をする、なんてエキサイティングなんだろう、と思える。

 

バッタの大群を追いかけるのも、夜明けまで星を見続けるのも、耳の中で暴れる蛾と戦うのも、案外悪くはないのかもしれない。

 

 

 

【おすすめ本】

 

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)

 

 先ほど紹介した鳥類学者の川上和人氏が、恐竜について語る本である。

恐竜は鳥の祖先であるが、恐竜の専門家ではないからこその視点があってとても面白い。読みながら何度も笑ってしまった。

読んだのが高校生のころだから、もう数年は前だな〜。懐かしい。