医大生 の blog

医学部のこと。読んだ本について書きます。

なぜ人類のIQは上がり続けているのか?

人類のIQが1900年ごろから上がり続けていたという事実があります。先進国ではその上昇は1990年代にほとんどの国で止まりました。900年代はじめの米国の平均的な人たちは現代人と比べるとIQ73程度でした。これを示したのはジェームズ・フリン氏であり、IQの世代ごとの上昇は彼の名前をとってフリン効果と呼ばれています。

IQとは平均的な人を100で表した相対的な数値です。相対的な数値であるにもかかわらず、世代ごとに比較するにはどのようなやり方をしているのかについては、本書をご覧ください。

話を戻してIQ73というのはかなり低い数値です。
「IQ70~85は境界領域知能とされ、明らかな知的障害とはいえず、環境を選べば、自立して社会生活ができると考えられる」とされています。
http://www.hattatsu.or.jp/hattatsu_shogai_toha.htm


フリンはフリン効果を「祖先よりも多様な認知的課題を負わされる時代にわたしたちは生きており、そうしたもろもろの問題に対処できるように、新たな認知能力や脳の領域を発達させてきた」と考えています。要は私たちの脳が「より現代的」である、としています。


フリンはこのIQの上昇を完全に環境要因に見ています。
IQは遺伝率が80%程度あると算出されているが、これはIQが世代ごとに環境要因によって上昇することと矛盾はないとしています。

白人と黒人の間にIQの差があるという事実があります。
日本では人種間での能力の差について話すことはあまり良くないとは思われていますが、アメリカほどではありません。米国ではこういう話はタブー視されているので、「The Bell curve」という正規分布の本にこの話が載ったときには大論争が起こりました。

ジェームズフリンも黒人の IQ は世代間上昇により白人との差は縮まるだろうと予想する、今現在の差が完全に環境によるものではないということを認めています。

ミネソタ大学の心理学者のスカーとワインバーグは1976年に黒人などマイノリティの子供を養子にした白人家庭の大規模な調査を行いました。
黒人の子供を養子にした白人夫婦の実の子供の平均 IQ は116.7で10それに対して生後1年以内に養子にあった黒人の子供の平均 IQ は111.1でした。白人の平均的な IQ が100で黒人が85であることを考えるとこの数字は驚くべきものです。

しかし現代の行動遺伝学はこの研究に一定の留保をつけます。今では遺伝の影響は年齢によって変わることが分かっているのです。
具体的に言うと知能における遺伝の影響は年を追うごとに大きくなります。幼少期の頃は家庭環境の影響が大きくても、青年期になるにつれ元々の遺伝の影響が大きくなります。

裕福な白人家庭の養子になった黒人の子供の IQ を大きく向上することを示したスカートワインバーグは、自らの仮説を検証するために10年後の1985年に同じ子供たちを再調査しています。 それによると生後1年以内に養子にあった黒人の子供の IQ は思春期になっても99.2で黒人が平均と比べてはるかに高かったです。 しかし10年前と比べると11.6ポイントも下がっていることがわかりました。養子を迎えた白人夫婦の実子の IQ は109.4で10年前から7ポイント下がっただけでした。さらには黒人とされた子供達は中には黒人の母親と白人の父親の子供が含まれており10年後の彼らの IQ が98.5なのに対して黒人同士の両親の子供の IQ は89.4と明らかに低いことも示されています。

(「もっと言ってはいけない」 橘玲 より)

『なぜ人類のIQは上がり続けているのか? 人種、性別、老化と知能指数』 ジェームズ・R・フリン
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『もっと言ってはいけない』 橘玲
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