医大生 の blog

医学部のこと。読んだ本について書きます。

看取りのエビデンス

先日祖父が癌で亡くなった。その際に終末期のケアについて調べたので共有したい。

すごく悲しいのは悲しいんだけど、思っていたより死は劇的なものではなかった。生と死とのグラデーションの間でゆっくり死の色が濃くなっていくような印象だった。

 

正確な予後の測定


およそどのくらい生きられるのか?という質問に対して3週間以上のオーダーで正確に答えるのは難しい。予後の測定方法と言っても死が近いにしろどのくらいの近さにいるのかを測る方法だ。

PPIとは

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表2 PPIの評価方法(がん治療レクチャー.2011;2(3):589-593.より抜粋、一部改変)
左側の項目(起居)から順に、患者に最も当てはまるレベルを決定する。

PPSスコア(画像真ん中)、経口摂取量、浮腫、安静時呼吸困難、せん妄より予後3週間未満であるかどうかを判定する指標である。

採血などを行わずに比較的正確な予後をはかることができるので、簡便に用いることができる。

点滴(輸液)の真実

10年前までは食べられなくなったら点滴をするというのは、通常の終末期医療の一部だった。
しかしこの10年で時代は変わり「輸液は苦痛を緩和するわけではない」という知見が知られるようになった。

そして最近ランダム化比較試験というエビデンスレベルの非常に高いしっかりしたデザインの研究が行われ、「死亡直前期の輸液はQOLと生命予後に効果がない」という結果が出た。
(この実験では著名な脱水が認められる人は除かれていることに注意)

つまり、死亡直後で食べられなくなった人に点滴をしても寿命も延長しないし苦痛の緩和にもならない、ということである。
しかし家族から見ると何も食べていない患者に点滴もしてあげないのは虐待をしているような気分になってしまう。

事実、口から食べられない患者に輸液をしないことは家族の苦痛につながるという研究もある。

点滴をしないという決断をするにしても後悔のないようにしてほしいと思う。
わたしの叔母は食べられていないことをずっと気にしていて辛そうだった。


オピオイド(医療系麻薬)は麻薬で中毒性が強いから使わない方が良いのか?

 

 

オピオイドは、医師が正しく管理し処方すれば安全な薬剤だ。モルヒネや麻薬と聞くとどうしても抵抗感があるかもしれないが、処方の仕方を誤らなければ痛みを抑える強い味方だということをわかってもらいたい。

 


薬を使ったからせん妄が出たのか?

 

がん患者の70%で終末期のせん妄が出る。せん妄とは意識が混濁し、奇妙な思考や幻覚や錯覚が見られる様な状態である。

患者さんの家族としてはせん妄は
1.痛みのせいでなった
2.薬のせいでなった
という誤解をしてしまう。
しかし本当はせん妄は意識の障害であり、肝不全や腎不全などの臓器障害でおこるということを知ってもらいたい。

特に痛みのせいだと考えると家族は辛くなってしまう、という研究結果がある。

わたしも祖父が見えていないものを見ていたり、最期の方になってわたしのことが分からなくなったりしたとき、すごく辛い思いをした。


そもそも終末期の意識の混濁は、病気なのかという議論もある。死にゆく過程の一部としてせん妄があるとも考えられるとして、終末期せん妄をpart of natural dying process と呼ぶ場合もある。

 

 

おすすめ本

 

エビデンスからわかる 患者と家族に届く緩和ケア

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終末期のケアはどうしても非科学的な情報に手を出しがちです。

この本は専門書ですが、緩和ケアを理解したいという人は平易そうな専門書を読んでみることをお勧めします。

 

死亡直前と看取りのエビデンス

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こちらは「エビデンスからわかる・・・」より少し専門的な内容になります。